それが本当に、あるなしには関わらず……。

 部屋に入ると、とても綺麗に見えた。
 別になにが変わった訳ではない。いつものように季節外れの大仰な布団は一年以上役目を務めていないウォークマシンに乗っかっているし、身内の雑多な趣味を快適に行なうために最低限の散らかり具合しか片付けられてはいない。部屋は乱雑、とまでは行かないが、少なくとも整頓されているように見えない、“いつも”と云う普通。
 でもしかし、妙に、何かが、綺麗に見えた。
 ああ、そうか、と思い当たる。いや、思い当たった訳ではないのだろう。そうではなく、ただそれもあるのだろうと言う可能性が閃いたのだ。
 この綺麗に見える原因は、幾通りかが考えられるが、しかし確たるものには突き止められない。
 しかし、それでも、それ以上のことに、気づいた。


 もしかしたら、こう言ったいつもの日常に見える僅かな“もの”を写し取ろうと、画家は日々を勤しんでいるのではないかと。


 言葉では片付けれない(片付けたくない)見える、何かを。そんな事を思った、日だった。