書評

白い犬とワルツを (新潮文庫)

白い犬とワルツを (新潮文庫)

あらすじ:長年連れ添った妻に先立たれ、自らも病に侵された老人サムは、暖かい子供たちの思いやりに感謝しながらも一人で余生を生き抜こうとする。妻の死後、どこからともなく現れた白い犬と寄り添うようにして。犬は、サム以外の人間の前にはなかなか姿を見せず、声も立てない―真実の愛の姿を美しく爽やかに描いて、痛いほどの感動を与える大人の童話。あなたには、白い犬が見えますか?

 なんだろう、ここまで裏表紙の紹介が的を射ていると思ったの初めて。大人の童話、確かにそう思い、そして沁み入るような感動を貰った気がする。もう八十にも届く老年輩サムの妻コウラを亡くすことから物語が始まる。彼女は一言も発さずに目を閉じ、ただ思い出の中だけでしか語らぬ存在になってから幕が開くのだ。慌てて帰ってきた八人の子と二十八人の孫、そして元家政婦のニーリーたちが今後のサムを心配をかけている時にひょっこりと白い犬が現れるのだ。
 読んでいる間、私は静かな時を過ごした。ふと気が向き明け方の新緑の空気に包まれながらする散歩みたいな、そんな静けさのある物語。清涼な、どこか心が洗わせられるように感じた。
 これはある人の感想に感化して読み始めたものだがその人の言うとおりの気持ちになった。大人の童話、今の私が把握するには余りにも時間が足らなすぎる気がした。今よりももっと後、――それこそ二十年ぐらい後――子供がすくすく育つような時にでも、またもう一度読み返したいと思った。