無くなってしまった。

 あの頃の思いはなくなってしまったのだ。いまは経験と言う二文字の束縛が私をつなぎとめている。経験は鎖ではなく、心の中の記憶に居座りこんでおり、それを見た私が、私を止めてしまうのだ。……分かりやすく言えば、プライド。粗末な者を書いたら、今までの全てが瓦解しそうで、それが恐くて一歩も踏み出せないのだ。……正直に言って、怖いと感じてしまっている。矮小な私を笑うのなら笑え。それでも、私は動けない。
 暑さを失い、向こう見ずだった私は過去の時間とともに埋めつくされてしまったのだ。その頃の私は、いない。時間は止まらず、経過し続けるものだから。